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『経済倫理=あなたは、なに主義?』

アンケート結果2009

 

 

■若森みどり先生の講義での結果です。

 

首都大学東京における2008年度後期の講義「産業社会思想U」(30人規模、2月3日時点)で、若森みどり先生が行ったアンケートの結果です。2008年10月7日、初回のガイダンスのおわりに、『経済倫理 あなたは何主義?』のアンケートを実施していただきました。( )の中身は、「現代とはどういう時代ですか?どんな社会問題に直面していると思いますか。いくつあげても可」、という質問に対する解答です。(出席者23人、22人記入。)最後に、私のコメントを付します。(20090212)

 

 

リベラリズム 9名

 

その内訳として、リベラリズム(1) XYYX 5名

(金融不安、長期不況から脱出できるか、慣習からの自由が進む一方で、新たな規則が必要になってきている時代、モンスターペアレント、ニート、談合、環境問題、利益追求、企業の社会的責任、非正規雇用、貧困率、格差、国家の財務問題、少子高齢化、戦争における日本の立ち位置、金融問題)

 

および、リベラリズム(2) XYYY 4名

(格差社会、宗教対立、サブプライム問題、北朝鮮・イラクなどの核問題、環境問題・食の安全・サブプライムといった影響がグローバルな問題、消費税増税、介護問題、ストレスなどの精神疾患、秋葉原の無差別殺人事件、(これと関連して)肥大化する自意識過剰な人間をどうやってガス抜きさせ、抑えるか)

 

近代卓越主義 YYYY 4名

(急激な近代化とその影、物質的な豊かさの時代における人間性の貧困と多様な人間性の可能性、公共の場における他者への無関心、政治の「現実」からの乖離)

 

市民コミュニタリアニズム YXYX 3名

(世界の主導権の移動の時代、グローバル化、不確実性)

 

国家型コミュニタリアニズム YYXX 2名

(環境問題、格差社会、信用破綻の時代:金融に対する投資家、食に対する消費者、企業に対する従業員、政治に対する有権者、先生に対する生徒や保護者、親と子など、元来信用してしかるべきものが信用できない時代)

 

平等主義/啓蒙主義(2) XXYY 2名

(環境問題、格差社会、石油や食糧の価格高騰、サブプライム問題)

 

新保守主義 YYXY 1名

(科学技術の発展によって人間自身への破壊の可能性が高まる)

 

新自由主義 XYXY 1名

(価値観の細分化、感情が無視された社会)

 

マルクス主義/啓蒙主義(1) XXYX 1名

(拝金主義、勝ち組・負け組、偽装、品格、過労死、鬱、ワークライフバランス、無差別殺傷、ニート、ワーキングプア)

 

無記入1名

 

 

 

以下、橋本のコメントです:

 

 若森みどり先生、アンケートの結果をご報告いただき、ありがとうございました。

まず、拙著『経済倫理=あなたは、なに主義?』における私のアンケートの分類について、補足します。

リベラリズムは、XYYXと、XYYYのいずれでもあるので、このタイプに分類される人は、おのずと多くなるでしょう。リベラリズムにおけるこの「幅」の問題ですが、これについては拙著第三章で、別の観点から、「主体化」型と「ヒューマニズム」型の二つに分類して、リベラリズムの内容をさらに検討しています。リベラリズムは現代の多数派なので、その内部の対立について、もっと細かくみる必要があります。そのためには、拙著第一章のアンケートは不十分なので、第三章が役立つというわけです。

次に、拙著では類型化していませんが、YXYXは、「市民コミュニタリアニズム」と呼ぶことができるでしょう。組織内部で生じた問題について、組織内部での自浄努力や自律的な解決を期待せず、市民的な法の観点から、法によって制裁することが望ましいという立場です。実はこの立場は、コミュニタリアニズムとしては矛盾しているようにみえるのですが、それでも、コミュニタリアンを支持する人たちの中には、市民的な人もある程度いるようです。

第三に、新保守主義の立場は、YYXXとYYXYのいずれでもあります。ただし私の分類では、YYXXを「国家型コミュニタリアニズム」と名づけています。新保守主義と国家型コミュニタリアニズムは、発想がとても近いのです。YYXXは、分類上はいずれでもあるわけですが、この二つの思想がどのように異なるのかについては、拙著第二章の説明をご参考にご判断ください。新保守主義については、67-71頁, 国家型コミュニタリアニズムについては、76-80頁です。

以上が分類の補足です。

ただ、拙著第一章のアンケートをしてみて、その結果から、どうしてこのような分類になるのかについては、私もうまく説明できないところがあります。むしろアンケートの被験者には、拙著第二章の分類のなかで、自分の立場に該当する思想の説明を読んでいただいて、それで納得するかどうか、と聞いてみるのが一番でしょう。納得しない場合には、そこから経済思想の深い議論に入っていく。そういう方法がよいのではないか、と思っています。

では結果についてコメントしますね。

今回のアンケート結果は、「リベラリズム」が多数派ということで、これは私が行った他のアンケート結果と類似しています。興味深いのは、「近代卓越主義」と「コミュニタリアニズム」が、リベラリズムに続く有力な対抗思想として、一定の支持を得ているという点です。以前、北海道大学の学生にアンケートを行ったときには、リベラリズムが多数派で、それに続く有力な思想は、「新保守主義」と「新自由主義」でした。この違いはしかし、東京と北海道の地域差というよりも、時代の変容によるところが大きいでしょう。

2008年9月の世界的な金融危機以降、そしてまた、アメリカにおけるブッシュ政権の末期とオバマの台頭以降、私たちのイデオロギーは、急速に、新自由主義と新保守主義から離れているのではないか、と考えられます。とすれば、この二つに代替する思想は何か。それが近代卓越主義とコミュニタリアニズムではないか、と考えられます。おそらくアメリカでは、この二つの思想がオバマ政権のイデオロギーになるのではないか。とすれば、とても興味深いです。

また、若森先生が行っていただいたアンケートでは、括弧内の記述が、それぞれのイデオロギー的立場と連動しているようで、これは大きな発見です。リベラリズムは、経済の制御と貧困の克服、そして人権・人命の問題といった関心に結びついていますね。国家型コミュニタリアニズムは、生活の「安心」ということに関心が特化している。近代卓越主義を選んだ方は、とても高度で卓越した関心を抱いているように見えます。マルクス主義は、格差問題の深刻な部分に光を当てています。こうして、社会問題に対する人々の関心の違いが、人々のイデオロギーの違いにも反映されていることが分かります。とても啓発的です。私も、こうしたアンケートの仕方を今度試みてみようと思います。

 以上です。若森先生、この度は本当にありがとうございました。